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数寄の家

日本人は元来、空間は基本的には空白であり、そこに立ち現れては消えゆくものを感じること、その移ろいゆくはかなさ、その空白である余白を大切にしてきました。それは、ある瞬間にその空間に気が満ち、神がそこに姿を現すという独特の宗教観とも繫り、日本人の宇宙感を形成する重要な概念でもありました。これらは、あらゆる気配、変化を肌で感じ、感覚としてそれを理解し受動するという他に類を見ない鋭敏で研ぎ澄まされた感性を醸成していった土壌でもあります。

また、現代建築において、ブルーノタウトによる日本の美意識の結晶とされる桂離宮の再発見は、日本建築と日本の美意識が現代建築の追い求めてきた透明性、シンプルシティ、機能性においてすでに現代建築を凌駕するほどに完成されていたことを世界に発信することとなり、日本建築は世界の建築に大きな影響を与えました。

『数寄の家』は、その日本人の遺伝子に組込まれた時間空間概念=宇宙観を踏まえた上で現在の生活習慣にあった美意識を表現しています。茶室に始まる『数寄家』造りはそもそも主人の『好き』を集めた空間=小宇宙を指しましたが、『すき』という言葉の意味自体、時代の移り変わりとともに変化してきました。主人の『好き』を集め、『数寄者』が集まる『数寄の家』もこれから時を経るにつれ、その時に応じて変化していきます。

そして、場所性を重んじ、家の中に常に宇宙観や自然を取り込もうとした日本人の精神性を反映し、外部を内部に取込む『入れ子』構造とするとともに随所に『見立て』の手法や『遊び』の心を大切にした意匠を施し、シークエンスの中に様々な想像力を喚起する隠喩が込められています。

それは、時間と空間の移ろいを大切にしてきたスピリットへのオマージュであり、現代における伝統の変換でもあります。

​即ち、日本的な感性を建築、住空間に組込んだのが『数寄の家』なのです。

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